今日は「山の日」ですね。
「山の日」は、山に親しみ恩恵に感謝することを趣旨として制定されたそうです。
せっかくなので山にまつわる小説紹介を試みたのですが、登山や山をテーマにした小説に触れる機会が少なく…。
そのため、今回は名前に「山」がつく作家で、私の大好きな「山本文緒」さんのおすすめ小説をご紹介します。
『恋愛中毒』
──どうか、どうか、私。これから先の人生、他人を愛しすぎないように。他人を愛するぐらいなら、自分自身を愛するように。水無月の堅く閉ざされた心に、強引に踏み込んできた小説家の創路。調子がよくて甘ったれ、依存たっぷりの創路を前に、水無月の内側からある感情が湧き上がってくる──。世界の一部にすぎないはずの恋が、私のすべてをしばりつけるのはどうして。恋愛感情の極限を抉り出す、戦慄のベストセラー小説。直木賞作家の原点。
こちらは衝撃的な一冊です。
人はここまで恋愛に狂えるのか、と。
圧倒的な疾走感と恋愛依存。
主人公であり語り手の水無月は、終始冷静に見えます。釧路に他にどれだけ女がいようと、自分にのめり込むように尽くします。けれど、ラストに近づくにつれ彼女がいかに狂っているか、自分を失っているかが明かされるのです(詳しくネタバレしたいところですが、面白いのでぜひ読んでみてください)。
この本を読んで感じたことは、自分一人変えられない人間が、誰かを変えることなんてできない、ということです。
誰かを狂ったように愛し、苦しんだことのある人は(現在進行形で苦しんしでいる人も)一読必須です。
『プラナリア』
どうして私はこんなにひねくれているんだろう──。乳がんの手術以来、何もかも面倒くさく「社会復帰」に興味が持てない25歳の春香。恋人の神経を逆撫でし、親に八つ当たりをし、バイトを無断欠勤する自分に疲れ果てるが、出口は見えない。現代の“無職”をめぐる心模様を描いて共感を呼んだベストセラー短編集。直木賞受賞作品。
「無職」をテーマにしている作品ですが、私は特に親子関係についての描写に目を見張りました。
良くも悪くも様々な親子関係が描かれているのですが、どれも本当にいると確信してしまうくらいリアル。
働くことより、家族関係の方が難しいのかも、と思わされました。
『シュガーレス・ラブ』
短時間、正座しただけで骨折する「骨粗鬆症」。恋人からの電話を待って夜も眠れない「睡眠障害」。フードコーディネーターを襲った「味覚異常」。ストレスに立ち向かい、再生する姿を描いた10の物語。
特に、生理痛に悩まされる女性を描いた「月も見ていない」が強烈。
主人公は生理のたびに別人になったかのような行為に及ぶのですが、正直共感してしまいます。
それくらい人にとって痛みというのは心を蝕むものなのでしょう。
自分から切り離すことのできない身体の痛みが心を蝕むのか、心が体を蝕むのか。心身が相互に痛めつけている様が苦しいです。
人によって異なる痛みだからこそ、自分の基準を他者に当てはめてしまうと恐ろしいことになることが、これでもか、と描かれています。
まとめ
山本文緒さんの作品は、心の中で燻っている形にできない気持ちや苦しみを一瞬で言語化してくれます。
読んでいる最中は、痛みを目の前に突きつけられるようで辛いのですが、読了後はその痛みが自分の体に馴染み、調和します。
もやもやを抱えている人は、苦しみとの新しい付き合い方が発見できるかもしれません。
圧倒的な愛と苦しみに包まれてみてください。